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盛岡地方裁判所 昭和24年(行)71号 判決

原告 小田島甚太郎

被告 岩手県農業委員会

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「岩手県稗貫郡八幡村大字南寺林第六地割第十一番田三反一歩及び同上十番田一畝十三歩の買収計画に対してなした原告の訴願につき、岩手県農地委員会が昭和二十四年四月一日付二四岩農委第一八のイ号をもつてなした訴願棄却の裁決はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、八幡村農地委員会は原告所有の請求趣旨記載の本件二筆の田地につき、昭和二十三年十二月十七日自作農特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第五項第二号に該当するものとして買収計画を樹立したので、原告は村農地委員会に対して異議を申し立てたが却下せられ、更に昭和二十四年一月二十日岩手県農地委員会に対して訴願を提起したところ、同年四月一日同農地委員会は前示買収計画を適法として原告の右訴願棄却の裁決をなし、右裁決書は同年五月十四日原告に送付せられた。しかし右訴願棄却の裁決は左の理由により違法である。

すなわち、本件農地は従来原告において耕作して来たものであるが、戦争が愈々苛烈となるに及んで極度に労働力が不足し、到底自家労働力のみによつては耕作を続けることが困難となり且つまた他人を雇い入れることも不可能となつたので、昭和十八年三月頃訴外高橋重助に依頼し、同年春頃から昭和二十二年秋まで常雇人として同人から労働力のみの提供を受けていたにすぎないのであり、従つて原告において肥料(堆肥及び金肥)及び種籾を出していた外稲の刈取及び脱穀をなし、作業中の管理は一切原告においてこれをなしたものである。もつとも当時食糧事情が窮迫していたので、右重助の懇望により収穫物の一部を割いて支払つたことはあるが、これは提供を受けた労働力に対する報酬として支払つたものであつて、共同耕作若しくは分け小作の趣旨で収穫物の分割をなしたものではない。自創法第三条第五項第二号にいわゆる仮装自作地とは、その実質は小作であるにかかわらず農地買収を潜脱しようとして自作を装う悪意の所有者の農地を指称するのであつて、右のような意図に出たものでなく、前記のようなやむを得ない事情から他人を雇つて労働力の不足を補い且つ耕作の全過程を通じて原告がその実質的主動権を把握している場合は前示法条にいわゆる仮装自作と称することはできない。しかるに八幡村農地委員会は、実質を観ることなく表面の形式を把え、本件農地を仮装自作地であるとして買収計画を樹立したのであるから右買収計画は違法な処置であり、これに対する原告の異議申立を却下して右買収計画を適法として維持した被告の本件訴願棄却の裁決もまた違法であつて取り消さるべきである。ここにこれが取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、被告の答弁に対し、訴外高橋重助は本件農地を請負耕作したものではない。原告は右訴外人を雇い入れて、同人とともに播種、田植、除草、稲刈の各作業をなしたものであり、同人は単なる個人で独立の耕作者ではないと附陳した。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の本件各田地は原告の所有で昭和十七年まで原告が耕作して来たこと及び原告主張のような経緯を経て本件訴願裁決に至つたことはこれを認めるが原告その余の主張事実は争う。右農地は原告が昭和十八年春から昭和二十二年秋まで訴外高橋重助をして請負耕作させていたもので、その契約の内容は、原告において肥料、種子、資材を供給し、脱穀をし、高橋重助において播種準備、播種、田打ち、除草、稲刈等をなし、収穫物は原告七分、重助三分の割合で分けることであつた。従つて本件農地は自創法第三条第五項第二号にいわゆる仮装自作地であるから同法条に基いて樹立した八幡村農地委員会の買収計画は適法であり、従つてこれを維持した本件訴願裁決もまた適法であつて何等の違法はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

原告主張の本件二筆の田地は原告の所有であつて昭和十七年まで原告自ら耕作して来たこと、訴外高橋重助が昭和十八年春から昭和二十二年秋まで右農地につき耕作に従事したこと、昭和二十三年十二月十七日八幡村農地委員会は右農地につき自創法第三条第五項第二号に該当するものとして買収計画を樹立したので、原告は同農地委員会に対し異議を申し立てたところ、却下せられるや更に県農地委員会に対し訴願を提起したが、昭和二十四年四月一日右訴願棄却の裁決があり、右裁決書は同年五月十四日原告に送付せられたことはいずれも当事者間に争がない。

自作地で、当該自作地について自作農以外の者が請負その他の契約に基き耕作の業務の目的に供しているものは、市町村農地委員会が自作農創設上政府において買収することを相当と認めるときは、これが買収計画を樹立することができるものであることは、自創法第三条第五項第二号、同施行令第四条の規定するところにより明らかである。ここにいう自作地について自作農以外の者が契約に基いて耕作の業務の目的に供しているとは、自作農以外の者が請負その他の契約に基いて耕作の業務に従事している場合であり、すなわちその者が自作農の行う耕作業務を補助するための単なる使用人ではなく、当該自作地の耕作の業務を引き受け、田植、稲刈、脱穀といつた部分的作業ではなく、耕作の全過程又はそれに近い主要部分の作業に従事し、実質上小作地と同様に見られ得る程度に達している場合をいうのであつて、その場合、農地についての営業の主体がその所有者であることは自作地という以上当然のことであり、従つてその耕作につき所有者において種苗肥料等を供給するとか或る程度耕作に従事するとか或は収穫物を自ら取得するとかいうようなことがあつても右規定の適用を妨げるものではない。けだし右のような場合には、法律上小作関係ではないけれども、等しく所有権者との契約に基き耕作の業務を営むものであり、自創法が自作農創設のため買収対象の農地を定める点からいえば小作関係と異なる扱いをしなければならない理由を発見し得ないからである。

ところで本件についてこれを観るに、証人鎌田久治、高橋忠太郎、似内亀五郎の各証言、証人菊池忠治、大原清助の各証言の一部及び原告本人尋問の結果の一部を綜合すれば、昭和十八年三月九日頃原告及び訴外高橋重助間に、本件農地につき、原告において肥料、種籾を供給しその他の諸経費を負担すること、田一反歩の耕作につき人夫(労働力)年間二十二人を要するものと見て、重助において同人の農機具を使用して十五人分(堆肥運搬二、田打二、田掻二、田植四、一番除草二、二番除草二、稲刈一合計十五人)の労働力を提供して耕作に従事すること、収穫物は原告七重助三の割合で分けることとの、同地方にいわゆる入田と称する契約を結んだこと、右約束に基き昭和十八年春から昭和二十二年秋まで重助夫婦及び息子忠太郎夫婦が右農地の農耕作業を行つたこと、原告においても肥料、種籾を供給した外前記割合による労力をも提供したこと、収穫物は前記約定の割合に従つて分け、供出は原告名義でなし、時に原告の要求により重助が原告名義で供出したこともあつたことを認めることができる。右認定に反する証人菊池忠治、大原清助及び原告本人の各供述部分は前記各証拠に照しこれを採用することができない。その他原告の全立証によつても右認定を覆えすことができない。右の事実によると、本件農地は原告の自作地であるが、右高橋重助は昭和十八年から昭和二十二年まで右農地につき前示入田契約に基き耕作の業務に従事していたものであつて、単に原告の自ら行う右農地の自作経営の補助者として労務を提供する者すなわち原告方の雇い人にすぎないものではなかつた事実を認めることができる。しからば本件農地は前示法条に規定するいわゆる仮装自作地に該当するものといわなければならないから、八幡村農地委員会がこのような自作地を政府において買収することを相当と認めて樹立した本件農地の買収計画は適法であり、その異議却下の決定に対する訴願を棄却した本件訴願裁決も従つて適法にして原告主張のような違法がない。原告の本訴請求は失当であり棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 小嶋彌作 佐藤幸太郎)

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